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ベトナムのスペシャルティとファインロブスタ:未評価のポテンシャルと現在地

世界第2位のコーヒー生産国ベトナムでは、「スペシャルティ」「ファインロブスタ」という言葉を耳にする機会が少しずつ増えてきました。一方で、SCA(Specialty Coffee Association)の正式なスコアやCQI(Coffee Quality Institute)の認証を取得しているロットは、まだ全体から見るとごく一部に過ぎません。

ここでは、ベトナムのスペシャルティ/ファインロブスタが「いまどこまで来ているのか」、そして「なぜまだ評価されていないポテンシャルが多いのか」を、現場の実感も交えながら整理してみます。

スペシャルティ/ファインロブスタの基準は世界共通

カップに注がれたスペシャルティコーヒー
スペシャルティ品質のベトナム産生豆

ベトナムで「スペシャルティコーヒー」と呼ぶとき、多くの場合は世界共通のSCA/CQI基準を前提にしています。SCAのカッピングフォームでは100点満点で80点以上をスペシャルティと定義しており、CQIのQグレーダー認証もこの評価軸に沿って行われます。

ロブスタについては、CQIが定める「Fine Robusta Standards」に基づいて評価され、同じく80点以上のロットが「ファインロブスタ」として扱われます。つまり、ベトナムだから特別な基準があるわけではなく、あくまで国際的な物差しの上で「スペシャルティかどうか」が判断されています。

一方で、輸出用グリーンコーヒーにはTCVN 4193などベトナム独自の品質規格も存在し、欠点豆の数や水分値などの物理基準が定められています。実際の現場では、こうした輸出基準をクリアしたうえで、SCA/CQIのカッピングで80点以上を狙う、二段構えの品質づくりが少しずつ広がっています。

なぜ正式なスコアを持たないロットが多いのか

それでも実際には、SCAスコアやQグレード認証を取得していないロットが圧倒的多数です。理由として、ベトナムに限らず次のような構造的な課題がよく挙げられます。

  • 評価にかかるコストと手間:正式なカッピング評価やコンテスト出品には、サンプルの準備・輸送・評価費用・時間がかかります。小規模農家や協同組合にとっては、「それよりも確実に買ってくれる輸出業者やロースターと関係をつくる方が先」という優先順位になりがちです。
  • Qグレーダーや評価機関へのアクセス:ベトナム国内にもQグレーダーやSCA認定スクールは増えていますが、ハノイやホーチミンといった都市部に偏っており、中部高原の農園から見ると「近くに相談できる場所がない」という声もあります。
  • 市場からのインセンティブ不足:生産者から見ると、「スコアを取っても、必ず高値で売れるとは限らない」「買い手がスコアより実績や関係性を重視する」という現実があります。そのため、「まずは品質づくりと安定取引に集中し、認証はその先の話」と捉える人も少なくありません。
  • 評価軸と実際のスタイルのギャップ:SCAのカッピングフォームはもともとウォッシュトアラビカを想定しており、ベトナムのナチュラルや実験的な精製、さらにはロブスタの個性を十分に表現しきれない、という指摘もあります。「自分たちのコーヒーが本当に正当に評価されるのか」という不安から、公式評価に慎重な生産者もいます。

こうした事情が重なり、「スペシャルティクラスの品質がありながら、まだスコアを取得していないロット」が多く生まれているのが現状だと考えられます。

隠れたポテンシャルを示すコンテストと現場のカッピング

それでも、少しずつ“見える化”が進み始めています。ベトナム国内では、UCC品質コンテストや各地域のスペシャルティコンテストが開催されており、そこでSCAフォームに基づく本格的なカッピング評価が行われています。

これらのコンテストのレポートを見ると、

  • 決勝進出ロットの多くがSCAスコア80点以上を獲得していること
  • ダラットやラムドン、中部高原の協同組合が80点台半ばのスコアを叩き出していること

が報告されており、「スペシャルティ基準に達するロットは確かに存在する」ことが裏付けられています。

私たちがダラットやラムドン省(バオロク/ディリン)の農園で一緒にカッピングしているときも、SCAの評価軸に沿ってみれば80点以上と判断できるロットに出会うことが少なくありません。ただ、それらはまだ国際コンテストに出ていなかったり、正式スコアを取得していなかったりするため、外から見ると「普通のベトナムコーヒー」の一つにしか見えない、というギャップがあります。

Tung氏の85.33点が示すもの

ベトナム中部高原のパートナー、Tung氏
パートナーのTung氏

そうしたなかで、パートナーであるTung氏の直営農園は、2025年収穫ロットで一つの象徴的な結果を出しました。SCA基準に基づくカッピング評価で85.33点というスコアを獲得し、評価区分「Excellent」と認められたのです。

Tung氏農園のSCAカッピングスコアシート(85.33点/Excellent)
Tung氏農園の85.33点カッピングスコア

一般に、SCAスコアでは

  • 80〜84.99点:Very Good
  • 85〜89.99点:Excellent

と評価されることが多く、85点台は世界的に見ても十分に高い水準です。この結果は、「ベトナムの中部高原からも、国際基準で見て堂々とExcellentと呼べるロットが生まれている」という、非常に分かりやすい証拠だと言えます。

私たちが日本にお届けしているコーヒー豆の中には、このTung氏の農園を含む中部高原の農園で育てられたロットがいくつもあります。すべてが85点以上というわけではありませんが、「まだ正式スコアこそ付いていないが、スペシャルティの基準を十分に満たしている」と感じられるロットは年々増えてきています。

いまベトナムを選ぶことの“先取り感”

ベトナム中部高原・ダラットの茶畑と山並み
ダラット高原の風景

こうした状況を一言でまとめると、ベトナムのスペシャルティ/ファインロブスタはまだ「評価とブランドが追いついていない段階」にあります。裏を返せば、いまのうちにベトナム中部高原の高品質ロットを選ぶことは、

  • スペシャルティ基準の品質
  • まだ広く知られていない産地・農園のストーリー
  • 将来のブランド化を先取りする“特別感”

を同時に手に入れることにつながる、と考えられます。

Tung氏の会社で行われるカッピング風景
Tung氏の会社でのカッピング風景

私たち自身も、ダラットやラムドン省バオロク/ディリンの農園と共にカッピングを重ねながら、Tung氏の85.33点のような具体的な実績を一つずつ積み上げていくことで、「ベトナム=量」だけではない新しい顔を、日本のみなさまにお伝えしていきたいと思っています。一杯のベトナムコーヒーの中にある、まだ評価されきっていないポテンシャルを、一緒に探していただけたらうれしいです。